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東京地方裁判所 平成5年(行ウ)188号 判決

東京都大田区本羽田三丁目二四番二号

原告

大幸紙工株式会社

右代表者代表取締役

畝本政明

右訴訟代理人弁護士

物部康雄

東京都大田区蒲田本町二丁目一番二二号

被告

蒲田税務署長 小池博

右指定代理人

野崎守

佐藤謙一

岡野英夫

羽柴宗一

主文

一  被告が昭和六三年九月三〇日付けで原告に対してした合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五八年七月から一二月までの間の源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定のうち、源泉所得税額四二五万七八七一円、不納付加算税額四二万五〇〇〇円を超える部分の取消請求に係る訴えを却下する。

二  被告が昭和六三年九月三〇日付けで原告に対してした合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五九年七月から一二月までの間の源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定のうち、源泉所得税額八五四万五八八五円、不納付加算税額七九万一〇〇〇円を超える部分の取消請求に係る訴えを却下する。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和六三年九月三〇日付けで原告に対してした次の各課税処分を取り消す。

(一) 合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五八年三月一日から昭和五九年二月二九日までの事業年度分(以下「五九年二月期分」という。)の法人税の更正のうち所得金額二一七八万〇五一〇円、税額八〇六万三六〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち右超過税額に係る部分

(二) 合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五九年三月一日から昭和六〇年二月二八日までの事業年度分(以下「六〇年二月期分」という。)の法人税の更正のうち所得金額四一七九万六二六六円、税額一七〇二万六七六三円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち右超過税額に係る部分

(三) 合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和六〇年三月一日から昭和六一年二月二八日までの事業年度分(以下「六一年二月期分」という。)の法人税の更正のうち所得金額五七八六万〇八四〇円、税額二四〇〇万二九六〇円を超える部分及び重加算税賦課決定のうち右超過税額に係る部分

(四) 合併前の大幸紙工株式会社に係る昭和五八年七月から一二月までの期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定、昭和五九年一月から六月まで、同年七月から一二月まで、昭和六〇年一月から六月までの各期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税・重加算税の賦課決定、昭和六〇年七月から一二月までの期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和三二年三月二八日に商号を「大豊紙業株式会社」として設立された株式会社であるが、昭和六二年一二月二五日、訴外大幸紙工株式会社を吸収合併したことにより、同社の権利義務を包括的に承継し、昭和六三年一月一二日、商号を「大幸紙工株式会社」と変更したものである。

2  吸収合併される前の訴外大幸紙工株式会社(以下「大幸紙工」という。)は、五九年二月期分ないし六一年二月期分(以下「係争各事業年度分」という。)の法人税につき、別表1の「確定申告」欄記載のとおり確定申告をしたところ、被告は、昭和六三年九月三〇日付けで、原告に対し、同表の「更正・賦課決定」欄記載のとおり、大幸紙工の係争各事業年度分の所得金額及び納付すべき法人税額を更正(以下「本件各更正」といい、各事業年度分の更正を「五九年二月期分更正」などという。)するとともに、重加算税等を賦課する旨の決定をした。

3  また、被告は、大幸紙工が、別表2記載の各期間中に、その代表者であった畝本政明(以下「畝本」という。)に対し所得税を源泉徴収しないで臨時に給与を支給したとして、昭和六三年九月三〇日付けで、原告に対し、同表記載の各金額の源泉所得税を納付すべき旨の告知(以下「本件納税告知」という。)を行うとともに、その納税告知に係る不納付加算税及び重加算税を賦課する旨の決定をした。

4  原告は、右2、3の各課税処分を不服として、昭和六三年一一月三〇日、被告に異議申立てをしたところ、平成元年二月二八日付けで棄却されたため、同年三月二七日、国税不服審判所長に審査請求をしたが、平成五年四月五日付けでこれも棄却された。

5  しかしながら、大幸紙工の所得金額は、五九年二月期分が二一七八万〇五一〇円、六〇年二月期分が四一七九万六二六六円、六一年二月期分が五七八六万〇八四〇円をそれぞれ超えることはないから、本件各更正のうち右金額を超える所得金額に基づいて計算された法人税額を課する部分及び各重加算税賦課決定のうち右の過大な法人税額に係る部分はいずれも違法であり、また、大幸紙工は、源泉徴収をしないで畝本に臨時に給与を支給したことはないから、本件納税告知及びこれに係る賦課決定も違法である。

よって、原告は、それら各課税処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし4の各事実は認めるが、同5は争う。

なお、被告は、源泉所得税の計算に誤りがあったため、平成六年四月六日付けで、昭和五八年七月から一二月までの期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定のうち、源泉所得税額四二五万七八七一円、不納付加算税額四二万五〇〇〇円を超える部分、昭和五九年七月から一二月までの期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定のうち、源泉所得税額八五四万五八八五円、不納付加算税額七九万一〇〇〇円を超える部分をそれぞれ取り消した。

三  抗弁

1  本件各更正の適法性

(一) 仕入代金の損金不算入

(1) 大幸紙工は、各種段ボール箱等の梱包資材の製造販売を業とする会社であり、昭和五五年ころから、訴外初心化学株式会社(以下「初心化学」という。)から購入したプラスチック製提げ手を自社製品に取り付けて販売するようになったが、大幸紙工の代表者であった畝本は、昭和五七年六月ころ、自宅(東京都大田区本羽田三丁目一二番二〇号)の敷地内に建築された作業場(以下「本件建物」という。)に機械設備を設置して独自にプラスチック製提げ手の製造を始めるようになり、以後、大幸紙工は、そこで製造された提げ手を取り付けた各種段ボール箱を販売するようになった。

(2) 大幸紙工は、「三幸化学」の名称を使用して右プラスチック製提げ手の製造事業(以下、「本件事業」といい、その製品を「三幸製品」という。)を行い、「三幸化学」から三幸製品を仕入れた形にして、その仕入金額を損金に計上して経理処理をしていた。

大幸紙工が係争各事業年度中に「三幸化学」から仕入れたとして毎月経理処理をした三幸製品の仕入金額及び仕入値引額は、別表4ないし6の各〈1〉欄記載のとおりである。

そして、大幸紙工は、係争各事業年度分の所得金額を計算するに際し、それら別表の各〈1〉欄の「仕入金額」欄記載の金額から「仕入値引」欄記載の金額を控除した仕入代金(以下「本件仕入代金」という。)の額(事業年度ごとの合計金額は別表3の2欄に記載のとおり)を損金に計上したうえ、係争各事業年度分の法人税の申告をしていた。

(3) しかしながら、本件事業は大幸紙工の事業の一部として行われたものであって、本件仕入代金の額は、大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入することはできない。

(二) 除外売上金額の益金算入

三幸製品は、大幸紙工がその販売する段ボール箱に取り付けて使用したほか、株式会社中野商店(以下「中野商店」という。)に対しても販売されていたが、大幸紙工は、係争各事業年度分の法人税の申告に際し、これを大幸紙工の売上金額として益金に計上しなかった。

係争各事業年度における各月の中野商店に対する三幸製品の売上金額は別表4ないし6の各〈2〉欄記載のとおりであって(事業年度ごとの合計金額は別表3の3欄記載のとおり)、この金額は、大幸紙工の所得金額の計算上益金に算入すべきものである。

(三) 減価償却超過額の損金不算入

大幸紙工は、六一年二月期分の所得金額の計算に際し、租税特別措置法(昭和六一年法律第一三号による改正前のもの)四二条の五に定める「エネルギー基盤高度化設備を取得した場合の特別償却又は法人税の特別控除」の特例の適用を受け、一三三三万九四七五円の特別償却額を損金に算入していたが、青色申告の承認を取り消されたことに伴い、右特例の適用を受けることができなくなったから、右金額は、六一年二月期分の所得金額の計算上損金に算入することができない。

(四) 原材料費等の必要経費の損金算入

(1) 大幸紙工は、係争各事業年度中、「三幸化学」の名称で、訴外株式会社トヨタカ(以下「トヨタカ」という。)から三幸製品を製造するための原材料を仕入れ、別表4ないし6の各〈3〉欄の「トヨタカからの仕入金額」欄記載のとおりの金額「事業年度ごとの合計額は別表3の6欄記載のとおり)を支払った。

(2) 大幸紙工は、係争各事業年度中、「三幸化学」の名称で、三幸製品の製造の一部を初心化学に外注し、別表5及び6の各〈3〉欄の「外注費」欄記載のとおりの代金(事業年度ごとの合計額は別表3の7欄記載のとおり)を同社に支払った。

(3) 大幸紙工は、係争各事業年度中、三幸製品の製造に要した光熱費として別表4ないし6の各〈3〉欄の「光熱費等」欄記載のとおりの金額(事業年度ごとの合計額は別表3の8欄記載のとおり)を支払った。

(4) 右(1)ないし(3)の金額は、いずれも大幸紙工が三幸製品の製造のために要した必要経費として、係争各事業年度分の大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入されるべきものである。

(五) 受取利息の益金不算入

大幸紙工は、係争各事業年度分の所得金額の計算に際し、「三幸化学」に対する貸付金から生じる別表4ないし6の各〈4〉欄記載のとおりの受取利息(事業年度ごとの合計金額は別表3の9欄記載のとおり)を益金に算入していたが、「三幸化学」は大幸紙工が本件事業を行うに際して使用していた名称に過ぎないから、そのような受取利息が生じていたとすることはできず、右受取利息の金額は、大幸紙工の所得金額の計算上益金に算入されないものである。

(六) 未納事業税の損金算入

五九年二月期分の所得金額に基づいて計算される六〇年二月期分の未納事業税の額は二五九万三〇〇〇円であり、六〇年二月期分の所得金額に基づいて計算される六一年二月期分の未納事業税の額は四九〇万六一〇〇円であるから、これらの金額は、大幸紙工の所得金額の計算上それぞれの事業年度の損金に算入すべきものである。

(七) 本件各更正の適法性

右のとおりであるから、大幸紙工の係争各事業年度分の申告所得金額(別表3の1欄記載の金額)に、右(一)ないし(三)の各金額(同表3の2欄ないし4欄記載の金額)を加え、右(四)ないし(六)の各金額(同表3の6欄ないし10欄記載の金額)を減じて算出される大幸紙工の所得金額は、五九年二月期分が二七七七万三〇五一円、六〇年二月期分が五三二九万〇五二五円、六一年二月期分が六五九九万五〇五九円であって、いずれも本件各更正による所得金額を上回るから、本件各更正に所得金額を過大に認定した違法はなく、本件各更正に係る法人税額も適法に算出されたものである。

2  本件各更正に係る重加算税賦課決定の適法性

右1に述べた事実関係に照らせば、五九年二月期分更正によって新たに納付すべき法人税額八七九万円(国税通則法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた金額であり、以下も同じである。)、六〇年二月期分更正によって新たに納付すべき法人税額一五五五万円、六一年二月期分更正によって新たに納付すべき法人税額のうち一七九八万円(減価償却超過額を損金に算入しないことによって新たに納付すべきことになった税額を除く部分)は、いずれも、大幸紙工が、所得金額の計算の基礎となった事実を隠ぺい又は仮装して法人税の過少申告を行っていたことにより更正を受けた金額である。

したがって、被告は、国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)六八条一項に基づき、原告に対し、右税額に同項所定の一〇〇分の三〇を乗じた額の重加算税をそれぞれ賦課したものである。

3  本件納税告知の適法性

(一) 畝本に対する臨時的給与の支給

係争各事業年度当時、大幸紙工の発行済み株式は、その六〇パーセントを畝本が、三五パーセントを畝本の妻畝本藤江(以下「藤江」という。)が、残り五パーセントを畝本の兄畝本芳和が、それぞれ保有しており、畝本は、典型的な同族会社である大幸紙工の筆頭株主かつ代表取締役として大幸紙工の運営に関し実権を有していた。

畝本は、本件仕入代金の支払として大幸紙工から交付を受けた小切手や手形を適宜現金化して、自らが管理する第一勧業銀行羽田支店の海老沢房子(畝本の実妹)名義の普通預金口座に預け入れて管理していたほか、畝本名義で借りた同支店の貸金庫にその現金を保管しており、また、中野商店から受領した三幸製品の代金についても、右と同様に畝本の管理支配下に置かれていた。

そして、本件仕入代金から原材料費などの必要経費等を控除した残額及び中野商店に対する売上金が、大幸紙工の資産購入に充てられ、あるいは同社の預金として社内に留保されていたようなことはなかったから、右金額は、大幸紙工から畝本個人に支給された臨時的給与、すなわち、法人税法上の利益処分として役員に支給された賞与(以下「認定賞与」という。)と認めるべきである。

(二) 認定賞与の支給時期

大幸紙工は、昭和五八年六月から昭和六〇年一一月までの各月に、別表4ないし6の各〈1〉欄の「仕入金額」欄記載の金額を仕入れ、「仕入値引」欄記載の金額の値引きを受けたものとして経理処理し、その経理処理をした翌月の二五日に、畝本に対し、本件仕入代金の支払として小切手又は手形を交付した。また、中野商店は、昭和五九年二月から昭和六〇年一一月までの各月に、大幸紙工から別表4ないし6の各〈2〉欄に記載の金額の三幸製品を仕入れ、その翌月に、畝本にその仕入代金を支払った。

したがって、畝本は、昭和五八年七月から昭和六〇年一二月までの各月に、本件仕入代金から必要経費等を控除した残額及び中野商店への売上金を自己の支配管理下に置いたものということができ、その時点で、認定賞与の支給を受けたというべきである。

(三) 認定賞与の金額

畝本は、昭和五八年七月から昭和六〇年一二月までの各月に、別表4ないし6の各〈3〉欄記載の必要経費につき、トヨタカからの仕入金額及び初心化学への外注費は前月分のものを、光熱費等は当月分のものをそれぞれ支払ったほか、同表各〈4〉欄記載の受取利息をその当月に大幸紙工に支払ったものとしていたから、その前月に生じた本件仕入代金及び中野商店への売上金から、前月分のトヨタカからの仕入金額及び外注費並びに当月分の光熱費等及び受取利息を控除した残額が、認定賞与の金額であり、その額は別表7記載のとおりである。

(四) 納付すべき源泉所得税額

大幸紙工は、税務署長の承認により所得税法二一六条所定の源泉所得税の納期の特例を受けていたから、毎年一月から六月まで及び七月から一二月までの各期間に支給した給与等の源泉所得税を各期間の最終月の翌月一〇日までに納付すべきであるところ、畝本に係る各期間の認定賞与につき源泉徴収すべき所得税額は、別表7の摘要欄に「源泉所得税額」として記載されたとおりである。

したがって、本件納税告知(一部取消後のもの)は、何ら違法ではない。

4  源泉所得税に係る賦課決定の適法性

被告は、大幸紙工が納付すべき源泉所得税額に一〇〇分の一〇の割合を乗じた額の不納付加算税を徴収することができるところ(国税通則法六七条一項)、既に述べたところからすれば、大幸紙工は、畝本に認定賞与を支給しながらその事実を隠ぺい又は仮装して源泉所得税を納付しなかったものであるから、被告は、不納付加算税に代えて、納付すべき源泉所得税額に一〇〇分の三五の割合を乗じた額の重加算税を徴収すべきことになる(同法六八条三項)。それら不納付加算税及び重加算税の額は以下のとおりである(なお、畝本に対する認定賞与の額は、申告されなかった大幸紙工の法人所得金額とも重複しているから、法人税に係る重加算税賦課決定の基礎となった法人所得金額に対応する認定賞与についての不納付源泉所得税額については、不納付加算税の対象とし、重加算税の対象とはしなかった。)。

(一) 昭和五八年七月から一二月までの期間

昭和五八年七月から一二月までの期間に係る納税告知(ただし一部取消後のもの)によって納付すべき源泉所得税額四二五万円(同法一一八条三項により一万円未満の端数を切り捨てた金額であり、以下も同様である。)に一〇〇分の一〇の割合を乗じた四二万五〇〇〇円が右期間に係る不納付加算税額となる。

(二) 昭和五九年一月から六月までの期間

昭和五九年一月から六月までの期間に係る納税告知によって納付すべき源泉所得税額のうち二八万円は重加算税の対象とすべきであるから、その金額に一〇〇分の三五を乗じた九万八〇〇〇円が右期間に係る重加算税額となり、その余の不納付源泉所得税額五二二万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じた五二万二〇〇〇円が不納付加算税額となる。

(三) 昭和五九年七月から一二月までの期間

昭和五九年七月から一二月までの期間に係る納税告知(ただし一部取消後のもの)によって納付すべき源泉所得税額のうち六二万円は重加算税の対象とすべきであるから、その金額に一〇〇分の三五を乗じた二一万七〇〇〇円が右期間に係る重加算税額となり、その余の不納付源泉所得税額七九一万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じた七九万一〇〇〇円が不納付加算税額となる。

(四) 昭和六〇年一月から六月までの期間

昭和六〇年一月から六月までの期間に係る納税告知によって納付すべき源泉所得税額のうち一六万円は重加算税の対象とすべきであるから、その金額に一〇〇分の三五を乗じた五万六〇〇〇円が右期間に係る重加算税額となり、その余の不納付源泉所得税額八九六万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じた八九万六〇〇〇円が不納付加算税額となる。

(五) 昭和六〇年七月から一二月までの期間

昭和六〇年七月から一二月までの期間に係る納税告知によって納付すべき源泉所得税額一一一九万円に一〇〇分の一〇の割合を乗じた一一一万九〇〇〇円が不納付加算税額となる。

四  抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)の(1)ないし(3)は認める。

(二)  同(二)は否認する。なお、被告は、審査請求の段階でも、「三幸化学」が畝本の個人事業でない根拠として、「三幸製品が三幸化学から大幸紙工以外に販売された事実がない」と主張していたものであり、本訴に至って、中野商店への売上を主張することは禁反言の原則に反し許されないというべきである。

(三)  同(三)は認める。

(四)  同(四)の(1)ないし(4)は認める。

ただし、右(3)の光熱費は電気代だけであるし、また、後記のとおり、三幸製品の製造業務については被告主張以外にも多額の必要経費の支払がされたのであって、被告主張の金額が必要経費の金額ではない。

(五)  同(五)は認める。

(六)  同(六)は争う。

(七)  同(七)のうち、大幸紙工の係争各事業年度の申告所得金額が別表3の1欄記載のとおりであることは認めるが、その余は争う。

2  抗弁2は争う。

3  抗弁3は否認する。

畝本は、本件事業によって生じた利益金を大幸紙工のために管理していたのであり、昭和六〇年一二月末日当時、少なくともその利益金である現金三三八五万円を銀行の貸金庫に保管していた。また、畝本は、右利益の中から、大幸紙工の事業の一部である本件事業のために機械設備を購入したり、大幸紙工の協和マリンサービス株式会社(以下「訴外会社」という。)に対する貸付金、大幸紙工の斉藤勘に対する五〇〇万円、福田勝美に対する四〇〇万円の各貸付金(同人らはいずれも大幸紙工の従業員である。)の資金に充てていた。

そもそも、本件各更正は、本件事業が大幸紙工の事業の一部であることを前提としているのであり、そうだとすれば、本件事業で生じた利益は大幸紙工の所得金額に過ぎないのであるから、畝本が対外的に「三幸化学」という大幸紙工とは別名義で本件事業を行っていたということから直ちに、本件事業によって生じた利益を畝本個人の利益(認定賞与)と認めて本件納税告知を行うことは、本件各更正を行った被告の立場と明らかに矛盾するのであって、畝本が、本件事業による利益金を個人で費消したり、個人の預貯金としたような具体的な事実関係の主張立証がされない以上、その利益金が大幸紙工から畝本個人へ支給された賞与と認めることはできないというべきである。

4  抗弁4は争う。

五  原告の主張(本件事業に係る必要経費)

本件事業を行うにあたっては、被告主張の金額以外にも別表8記載の金額の仕入代金、給与賃金、家賃等の支払がされており、これらは係争各事業年度分の必要経費として、大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入されるべきである。別表8記載の金額の具体的な内容は次のとおりである。

1  原材料の仕入金額

1 トヨタカ以外に、門馬弘経営の門馬化成(個人事業)からも三幸製品を製造するためのプラスチック原材料を仕入れ、五九年二月期分及び六〇年二月期分において別表8記載のとおりの仕入代金が支払われた。

2  製品の仕入金額

株式会社共進加工及び有限会社丸和化成から製品を仕入れ、係争各事業年度中に別表8記載のとおりの仕入代金が支払われた。

3  給与賃金

本件事業のために畝本清志、井上淳、水上貞子及び大場紳子が雇用され、別表9記載の各月に同表記載の給与賃金が支払われた。係争各事業年度中に右四名に支払われた給与賃金の合計金額は、別表8記載のとおりである。

4  家賃

本件事業に使用した本件建物は藤江が所有するものであり、藤江に対し、別表10の「家賃」欄記載の家賃が支払われた。

5  水道光熱費

本件事業に必要な機械を作動させるためには水と多量の電気を使用する必要があり、右電気及び水道料金として、別表8の「水道光熱費」欄記載の金額が支払われた。

6  保安料

本件建物のトランスの定期点検のため、社団法人関東電気管理技術者協会に対し、別表10の「保安料」欄記載の定期点検料金が支払われた。

7  通信費

本件事業のために必要な電話代として、別表10の「通信費」欄記載の金額が海老沢房子名義の普通預金口座から自動引落しの方法で支払われた。

8  修繕費

本件事業に必要な機械の修理や部品交換のため、別表10の「修繕費」欄記載の代金が支払われた。なお、昭和五九年四月分は有限会社岡元電設に対する支払であり、昭和五九年一〇月分のうちの二万円及び昭和六〇年二月分は川口鉄工株式会社に対する支払であり、その余の支払はニイガタ・マシン・サービス株式会社に対する支払である。

9  オイル代

本件事業に必要な機械を作動させるためには機械油(毎月五リットル入り一缶)と美州油とを使用する必要があり、その油購入代金として、別表10の「オイル代」欄記載の金額が支払われた。

10  減価償却費

本件事業を行うため、別表11記載のとおりの機械・工具が購入されたが、それらは減価償却の対象となる資産であるところ、減価償却費の計算の基礎となる取得価額、残存価額、耐用年数、償却率は別表12ないし14記載のとおりであり、係争各事業年度分のそれら資産に係る減価償却費は、別表8記載のとおりである。

なお、大幸紙工は、係争各事業年度において右減価償却費を損金として決算していないが、これは「三幸化学」を独立した事業体と考えてきたことによるものであり、このような場合まで確定決算主義を適用することは不可能を強いるものであって、税務上の公平からいっても右減価償却費の損金算入を否定する合理的理由はないというべきである。

11  諸雑費

本件事業を行うための諸費用として、別表8の「諸雑費」欄記載の金額が支払われた。

六  原告の主張に対する被告の認否

1  原告の主張1から9の経費が支払われたことは知らない。

2  同10のうち、減価償却資産の購入、その取得時期・取得価額は知らないし、その余は争う。なお、原告主張の減価償却費は、大幸紙工による決算がされていないから、大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入することができない。

3  同11の諸雑費が支払われたことは知らない。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一課税処分等の経緯

請求原因1ないし4の事実は、当事者間に争いがない。

第二法人税の更正について

一  被告主張の損益について

1  本件仕入代金の損金不算入

抗弁1(一)の(1)ないし(3)(本件事業が大幸紙工の事業の一部であって、本件仕入代金が係争各事業年度分の大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入されないこと)は、当事者間に争いがない。

2  除外売上金額の益金算入

(一) 原告は、被告が中野商店への売上を主張することは禁反言の原則に反し許されないと主張するが、本件のような課税処分の取消訴訟において、課税庁が課税処分の適法性を根拠付けるために新たな事実を主張することは何ら妨げられるものではなく、被告が審査請求の段階で異なる事実を述べていたからといって、当然に、被告の右主張が禁反言の原則に反し許されないと解すべき理由はない。したがって、原告の右主張は失当である。

(二) 官署作成部分につき成立に争いがなくその余の部分につき弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第二号証の一ないし三、原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、三幸製品は、大幸紙工が製造販売する梱包資材に付属品として使用されたほかに、中野商店に対しても販売されており、その売上金額は、別表4ないし6の各〈2〉欄記載のとおりであること、中野商店は、その購入の翌月、畝本に対し、三幸製品の代金を支払っていたこと、大幸紙工は、係争各事業年度分の所得金額の計算上、中野商店に対する右売上金額を益金に算入していなかったことが認められる。

右事実によれば、中野商店に対する右売上金額(事業年度ごとの合計金額は別表3の3欄記載の金額)は、大幸紙工の売上金額として、係争各事業年度分の大幸紙工の所得金額の計算上益金に算入されるべきである。

3  減価償却超過額の損金不算入

抗弁1(三)(租税特別措置法による特別償却額が六一年二月期分の大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入されないこと)は、当事者間に争いがない。

4  原材料費等の必要経費の損金算入

抗弁1(四)の(1)ないし(4)(別表3の6ないし8欄記載のとおりの原材料費、外注費及び光熱費が係争各事業年度分の大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入されること)は、当事者間に争いがない。

5  受取利息の益金不算入

抗弁1(五)(三幸化学からの受取利息が係争各事業年度分の大幸紙工の所得金額の計算上益金に算入されないこと)は、当事者間に争いがない。

二  原告主張の必要経費について

1  原告代表者本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一三号証によれば、本件事業は、粒子状のプラスチック原材料を射出成形機に投入し、その機械が製造される製品を袋詰めにするという比較的単純な工程を基本とした商品の製造業務であるところ、弁論の全趣旨によれば、被告は、大幸紙工の本件事業による所得金額を認定して本件各更正を行うに際し、原告代表者から帳簿書類などの必要経費に関する資料の提供がされなかったため、独自の調査によって得られた資料に基づいて、本件事業に要したとみられる原材料費、外注費及び光熱費といった確定申告書に記載されていない必要経費の存在を確認し、これを損金に算入してその所得金額を計算したことが認められる。

このような場合には、税務署長が把握した必要経費以外に、帳簿にも計上されず確定申告書にも記載されない必要経費が存在するとの事実については、それが納税者にとって有利な事実であり、しかも納税者がその裏付けとなる資料を整えてこれう立証することが容易であることなどに鑑みると、納税者においてこれを明らかにする必要があり、その具体的な立証が行われない限り、税務署長が把握した以上の必要経費は存在しないものと推認するのが相当である。

そこで、本件において、原告が主張する必要経費が認められるかどうかについて検討する。

2  原材料・製品の仕入金額について

原告代表者本人尋問の結果中には、原告の主張に副うかのごとき供述部分があるが、仕入期間及び仕入金額ともに曖昧であって、その裏付けとなる客観的な資料もなく、右供述部分のみから直ちに原告主張の事実を認めることはできない。そして、他に、原告主張の原材料・製品の仕入の事実及びその仕入金額を的確に認めるに足りる証拠はない(甲第一八号証中には、製品仕入についての記載があるが、裏付けとなる客観的な資料がなく、にわかに採用することができない。)。

3  給与賃金について

(一) 原告代表者本人尋問の結果によれば、畝本は、平成三年五月ころ、畝本清志、井上淳、水上貞子及び大場紳子の四名に対し、係争各事業年度中に「三幸化学」から支給を受けた給与賃金の額を証明する文書の作成を依頼し、そのころ、畝本清志は甲第三号証の一を、井上淳は同号証の二を、水上貞子は同号証の三を、大場紳子は同号証の四をそれぞれ作成したことが認められるところ、それらの書証には、右四名の者が本件事業に従事したことにより別表9記載のとおり給与賃金の支給を受けた旨の記載があり、前掲甲第一三号証、証人水上貞子の証言及び原告代表者本人尋問の結果中にも、右四名の者が係争各事業年度中に本件事業に従事していたとする記載及び供述部分がある。

(二) しかし、原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、甲第三号証の一ないし四の内容は、いずれも帳簿、所得税の源泉徴収に関する文書その他の客観的な資料に基づいて記載されたわけではないことが認められ、右書証の記載内容の正確性には相当の疑問を抱かざるをえない。

殊に、原本の存在及び成立に争いのない乙第九号証によれば、畝本清志は昭和六一年二月以降大幸紙工の社員として稼働しているところ、同人の給与は、稼働日数に応じた額の基本給に諸手当を加算したものが支給されており、その支給金額は、昭和六一年二月分が一万六〇〇〇円、同年三月分が二〇年三〇〇〇円、同年四月分が二三万五〇〇〇円、同年五月分が一六万三〇〇〇円、同年六月分が二二万七〇〇〇円、同年七月分が二三万五〇〇〇円であることが認められるから、昭和五八年当時、畝本清志に対し、毎月二五万円もの高額の給与の支給がされ、そのほかに賞与(七月と一二月に各二〇万円)も支給されたという甲第三号証の一の記載内容には多大の疑問がある。

さらに、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三号証の一によれば、井上淳は、昭和五九年七月二〇日から一一月三日までの間有限会社長栄製作所に勤務しており、同年一二月にも同社でアルバイトとして稼働していた事実が認められるのであって、それと同一の期間に、原告主張のような定額の給与の支給を受ける社員として本件事業に従事していたとするには疑問があるといわなければならない。

(三) ところで、証人水上貞子の証言中には、畝本清志と井上淳が同時期に本件建物でともに終日稼働していたとの証言部分があるが、これは、原告が同人らに対する給与の支払状況として主張するところと明らかに矛盾しているし、また、同証人は、係争各事業年度中の日曜日を除き毎日六時間(午前九時から午後三時まで)稼働していたと証言しており、そうだとすると、甲第三号証の三に記載された同人の時給は、昭和五八年中が六〇〇円、昭和五九年中が六二〇円、昭和六〇年中が六三〇円であるから、同人が支給を受けた給与賃金の額は、甲第三号証の三に記載された月平均額を大きく上回ることになるはずであって、同号証の記載内容と一致していない。

(四) 右のように、甲第三号証の一ないし四の記載内容の信頼性には多大の疑問があるし、また、前記甲第一三号証の記載部分や証人水上貞子及び原告代表者の供述部分も、客観的な資料に裏付けられたものといえないうえ、その間に一貫性を欠いているところがあることに加え、三幸製品の製造業務の内容からすれば、本件事業の遂行にあたっては、畝本、藤江、その他大幸紙工に雇用されて給与賃金の支給を受けている従業員などが適宜その業務にあたっていたのではないかとの疑念もあることからすると、右書証及び供述から直ちに本件事業のために原告主張の給与賃金が支払われたとの事実を的確に認めることはできないといわざるをえず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

4  家賃について

原告代表者本人尋問の結果によれば、本件建物について、藤江に対し家賃が支払われるようになったのは、昭和六二年一月ころからであって、係争各事業年度当時は支払われていなかったというのであるから、この点に関する原告の主張は理由がない。

5  水道光熱費について

昭和五九年二月期分の本件事業に要した水道料金及び電気代の合計額が原告主張の金額であることについては、これを認めるに足りる的確な証拠がない(前掲甲第一三号証中には、水道代は月額二〇〇〇円位である旨の記載があるが、これを裏付ける客観的な資料がなく、にわかに採用することができない。)。なお、昭和六〇年二月期分、昭和六一年二月期分の水道光熱費として原告が主張するところは、いずれも被告が主張する光熱費の額を下回るものである。

6  保安料について

前掲甲第一三号証及び原告代表者本人尋問の結果中には、本件建物のトランスの定期点検を受け、月額一万円を支払った旨の記載及び供述部分があるが、これを裏付ける客観的な資料がなく、右記載及び供述のみをもって直ちに原告主張のとおりの保安料を支払ったとの事実を認めることはできず、他に、右事実を的確に認めるに足りる証拠はない。

7  通信費について

弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる甲第五号証の二によれば、東京都品川区本羽田三-一二-一九に「三幸化学」名義で電話が設置された事実が認められるが、その電話料金の金額及びその支払の事実を明らかにする書証として原告が提出したものは、海老沢房子名義の預金通帳の写しのうち、昭和五九年一一月及び一二月、昭和六〇年二月ないし九月の「デンワ」という記載のある部分を切り取って用紙に貼り付けたと思われる甲第五号証の一だけであるところ、いかなる経緯でこのような預金通帳の一部を切り貼りした書証が作成されたのかが全く不明であり(前掲甲第一三号証によれば、通帳のコピーがたまたま一枚あったというのであるが、なぜそのような切り貼りした預金通帳のコピーが作成されたのかは明らかでない。)、それが真に本件事業に伴う入出金を記帳した預金通帳の写しであるのかどうかを確認するすべもないのであって、このような書証によっては、本件事業のために原告主張の別表10記載のとおりの電話代が支払われたとの事実を認めることはできない。

8  修繕費及びオイル代について

前掲甲第一三号証、原告代表者本人尋問の結果及びこれにより原本の存在及び成立が認められる甲第七号証、第八号証の一、二、第九号証によれば、畝本は、本件事業に必要な機械の修理や部品購入のため、別表10の「修繕費」欄記載のとおり代金をニイガタ・マシン・サービス株式会社、川口鉄工株式会社及び有限会社岡元電設に支払ったほか、本件事業に必要な機械を稼働させるために必要な油を美州興産から購入し、昭和六〇年一月及び二月にその代金合計一七万八六〇〇円を支払った事実が認められるから、六〇年二月期分の合計六五万四三〇〇円、六一年二月期分の合計七万四六〇〇円は、それら事業年度分の大幸紙工の所得金額の計算上損金に算入されるべきである。

9  減価償却費について

減価償却費の損金算入は、当該資産の取得価額を明らかにしたうえ、予め定められた償却方法により画一的に定められた一定の耐用年数にわたり計画的に行うべきものであって、当該資産について減価償却費を計上するかどうかは法人の選択に委ねられており、法人が当該事業年度においてこれを損金経理した場合にのみ、これを損金とすることができるものである(法人税法三一条一項)。

弁論の全趣旨によれば、別表11の減価償却資産は、簿外資産として係争各事業年度分の大幸紙工の決算において損金経理がされていないことが認められるから、仮に、それら減価償却資産が別表12ないし14記載の取得価額で取得されていたとしても、原告主張の減価償却費を損金に算入することはできないというべきである。原告は、右資産について減価償却費を損金経理しなかったのは、「三幸化学」を独立した事業体と考えてきたことによるものであり、このような場合まで確定決算主義を適用することは不可能を強いるものである旨主張するが、法人税法の前記規定は画一的に適用すべきであって、法人が損金経理をしなかった理由のいかんによって適用を異にすることはできないから、原告の右主張は採用することができない。

10  諸雑費について

原告主張の諸雑費の支出については、これを的確に認めるに足りる証拠がない(甲第一八号証中には、月平均二万円の諸雑費を必要とした旨の記載があるが、裏付けとなる客観的な資料がなく、にわかに採用することができない。)。

三  本件各更正の適法性について

1  五九年二月期分更正

当事者間に争いのない別表3の1欄記載の申告所得金額に、同表の2及び3欄記載の金額を加え、同表の6、8及び9欄記載の金額を差し引いて計算される五九年二月期分の大幸紙工の所得金額は、二七七七万三〇五一円であるから、その所得金額を二七四三万七〇五一円とする五九年二月期分更正には、所得金額を過大に認定した違法はなく、その法人税額も適法に計算された金額と認められる。

2  六〇年二月期分更正

五九年二月期分更正に係る所得金額に基づいて賦課されることが予想される大幸紙工の六〇年二月期分の事業税額は、未納の公租公課として法人の所得金額の計算上六〇年二月期分の損金に算入するのが相当であるところ(なお、更正に係る所得金額を超える所得金額を基礎として計算される事業税額は、賦課されることが予想される事業税額ということはできない。)、弁論の全趣旨によれば、その未納事業税額は二八五万〇四〇〇円であると認められる。

そして、当事者間に争いのない別表3の1欄記載の申告所得金額に、同表の2及び3欄記載の金額を加え、同表の6ないし9欄記載の金額、右二8に認定の修繕費及びオイル代六五万四三〇〇円並びに右認定の未納事業税額を差し引いて計算される六〇年二月期分の大幸紙工の所得金額は、五二三七万八八二五円であるから、その所得金額を四九〇五万四〇〇六円とする六〇年二月期分更正には所得金額を過大に認定した違法はなく、その法人税額も適法に計算された金額と認められる。

3  六一年二月期分更正

六〇年二月期分更正に係る所得金額に基づいて賦課されることが予想される大幸紙工の六一年二月期分の事業税額は、未納の公租公課として法人の所得金額の計算上六一年二月期分の損金に算入するのが相当であるところ、弁論の全趣旨によれば、その未納事業税額は四七四万二四〇〇円であると認められる。

そして、当事者間に争いのない別表3の1欄記載の申告所得金額に、同表の2ないし4欄記載の金額を加え、同表の6ないし9欄記載の金額、右二8に認定の修繕費七万四六〇〇円及び右認定の未納事業税額を差し引いて計算される六一年二月期分の大幸紙工の所得金額は、被告主張の六五九九万五〇五九円を下回るものではないから、その所得金額を六三七四万八二〇七円とする六一年二月期分更正には、所得金額を過大に認定した違法はなく、その法人税額も適法に計算された金額と認められる。

第三本件各更正に係る重加算税賦課決定について

既にみたように、大幸紙工は、「三幸化学」の名称を使用して本件事業を行い、自己の製造に係る三幸製品につき仕入を仮装し、本件仕入代金を損金の額に算入して、係争各事業年度分の法人税を申告したのであるから、その仮装した事実に係る所得金額を課税標準として新たに納付すべき法人税額については、重加算税を賦課する対象となるところ、本件各更正が適法なものであることは右のとおりであって、係争各事業年度分の大幸紙工の法人税に係る重加算税賦課決定は、いずれも適法に算出された重加算税を賦課するものと認められる。

第四源泉所得税に関する課税処分について

一  課税処分の一部取消しについて

弁論の全趣旨によれば、被告は、平成六年四月六日付けで、昭和五八年七月から一二月までの期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定のうち、源泉所得税額四二五万七八七一円、不納付加算税額四二万五〇〇〇円を超える部分、昭和五九年七月から一二月までの期間に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税賦課決定のうち、源泉所得税額八五四万五八八五円、不納付加算税額七九万一〇〇〇円を超える部分を取り消したことが認められるから、本件訴え中、右取り消された部分に係る源泉所得税の納税告知及び不納付加算税の取消しを求める部分は、訴えの利益がないことになる。

そこで、以下においては、右一部取消後の源泉所得税に関する課税処分の適法性について検討する。

二  認定賞与の存在について

1  前記争いのない事実と原告代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、(一) 係争各事業年度当時、大幸紙工は、その発行済み株式の六〇パーセントを畝本が、三五パーセントを藤江が、それぞれ保有している同族会社であり、畝本がその業務全般を切り回し、実権を掌握していたこと、(二) 大幸紙工は、昭和五八年六月から昭和六〇年一一月までの各月に、別表4ないし6の各〈1〉欄の「仕入金額」欄記載の金額を仕入れ、「仕入値引」欄記載の金額の値引きを受けたものとして経理処理し、その翌月の二五日に、本件仕入代金(右仕入金額を仕入値引額との差額)の支払として、畝本に小切手又は手形を交付していたこと、(三) トヨタカとの間では、取引額が月額五〇万円以上であるときは手形で決裁する約束であったことから、大幸紙工は、畝本に対し、本件仕入代金の支払のうち、トヨタカへの支払分に相当する金額については手形を交付し、その余については、小切手を交付していたこと、(四) 畝本は、右手形をトヨタカへ交付することによって、トヨタカに対する原材料費の支払を決裁し、右小切手は直ちに現金化して、その一部を第一勧業銀行羽田支店に自ら開設した海老沢房子名義の預金口座に入金し、同口座からは、本件事業に要した毎月の光熱費が自動引落しされていたこと、(五) 右のほか、右小切手を現金化した資金及び既に認定した中野商店に対する売上による収入(別表4ないし6の各〈2〉欄記載の金額)は、別表5及び6の〈3〉欄の「外注費」欄記載の費用にも充てられたが(弁論の全趣旨によれば、各月に生じた外注費はその翌月に支払われていたことが認められる。)、その残余である利益金は、大幸紙工の預貯金とされることもなく、畝本が、現金のまま自らの名義で借りた第一勧業銀行の貸金庫の中に保管し、自由に出し入れしうる状態に置かれていたこと、との事実を認めることができる。

2  ところで、原告は、畝本は本件事業によって生じた利益金を大幸紙工のために管理していたのであって、右利益金は、銀行の貸金庫に一部保管されていたほか、大幸紙工の訴外会社に対する貸付金、大幸紙工の斉藤勘に対する五〇〇万円、福田勝美に対する四〇〇万円の各貸付金としても使用され、また、本件事業の機械設備の購入のために使用されたと主張しているが、以下に述べるとおり、右利益金が大幸紙工のために使用されたとの事実を認めることはできず、原告が本件事業による利益金を大幸紙工のために管理していたことを窺わせる証拠はない。

(一) 原本の存在及び成立に争いのない甲第一四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第七号証の一、二及び原告代表者本人尋問の結果によれば、訴外会社は、その取得した第三者振出しの約束手形を大幸紙工又は畝本に割り引いてもらうという方法で、その割引金相当の金額の貸付けを受けていたこと、訴外会社は昭和六三年三月ころ倒産したが、その時点で不渡りとなっていた割引手形(回り手形)は三〇〇〇万円から四〇〇〇万円に上ったこと、大幸紙工は、昭和六二年三月一日から同年一二月二四日までの事業年度の決算において、訴外会社への貸付金につき、二〇六九万五一七四円の貸倒損失を計上していること、訴外会社は、畝本個人に対して担保の趣旨で所有権を移転していた不動産につき、その倒産のころ、その所有権を確定的に畝本個人に移転する旨を約したことの各事実が認められ、右認定に反する甲第二一号証の記載は採用することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

原告は、大幸紙工の訴外会社に対する簿外の貸付金の存在を証する書証として甲第一〇号証の一ないし五の手形(いずれも、畝本個人の最終裏書がされた訴外会社が第一裏書人の回り手形であり、その手形金額の合計は二一三五万円であって、大幸紙工が決算において貸倒処理した前記貸付金に係る手形とは別のものである。)を提出しているが、右認定した事実によれば、訴外会社に対しては、大幸紙工も畝本個人も金員の貸付けを行っていたのであるから、右手形の割引による貸付金が、その最終裏書人である畝本個人の手形割引による貸付金ではなく、大幸紙工の貸付金であると考えるべき根拠は乏しいといわざるをえないのであって、それらの手形の割引が大幸紙工の訴外会社に対する簿外の貸付に当たるとみることはできず、右手形の存在をもって、本件事業の利益金が大幸紙工の訴外会社に対する貸付金に充てられたと認めることはできない。

(二) また、斉藤勘に対する五〇〇万円の貸付けの事実を明らかにする趣旨で提出された甲第一一号証の一、福田勝美に対する四〇〇万円の貸付けの事実を明らかにする趣旨で提出された甲第一一号証の二は、いずれも貸主を「畝本政明」として作成された借用書であるから、大幸紙工がこれらを会社の貸付金として経理処理しているなどの特設の事情が認められない限り、右のような書証によって大幸紙工が斉藤勘や福田勝美に右金員の貸付けを行ったと認めることは困難であり、他に大幸紙工が貸主となって原告主張の金員の貸付けをしたことを認めるに足りる証拠はない。

(三) なお、原告は、本件事業の機械等の購入のためにも使用されたと主張するが、本件事業による利益金が、いつどのような機械設備の購入代金としていくら使用されたのか、全く明らかでなく、右利益金が本件事業の機械設備の購入のために使用されたとの事実を認めるに足りる証拠はない。

3  前記認定した事実に照らせば、畝本は、同族会社である大幸紙工の筆頭株主兼経営者であり、自己の判断でその経理処理を行うことができたものであって、大幸紙工から交付を受けた手形、小切手や中野商店に対する売上収入を資金として、本件事業のための経費を支払い、その残額を貸金庫に保管するなどして、自己の管理支配の下で、自由にこれを処分しうる状態に置いていたものであるから、右残額については、大幸紙工の利益処分として、簿外で臨時に役員賞与の支給を受けていたものと認めるほかなく、大幸紙工は、その認定賞与につき、畝本の所得税の源泉徴収をすべきであったというべきである。

三  認定賞与の支給時期及び支給金額について

1  既に認定したとおり、大幸紙工は、三幸製品の仕入計上の翌月に、畝本に対し本件仕入代金を支払っていたものであり、また、中野商店も三幸製品の仕入れの翌月に、畝本に対しその購入代金を支払っていたから、畝本は、昭和五七年七月から昭和六〇年一二月までの三〇か月にわたり、前月分に生じた本件仕入代金(別表4ないし6の各〈1〉欄の「仕入金額」から「仕入値引」を控除した金額)及び中野商店への売上金額(別表4ないし6の各〈2〉欄記載の金額)の合計額から、前月分の原材料費及び外注費並びに当月分の光熱費及び受取利息を控除した残額を、自己の管理支配下に置き、役員賞与としてこれを取得したというべきである。

2  したがって、昭和五八年七月から昭和六〇年一二月までの各月の認定賞与の金額は、各前月に生じた本件仕入代金と中野商店への売上金額の合計額から、各前月に生じた原材料費及び外注費(別表4ないし6の各〈3〉欄の「トヨタカからの仕入金額」欄、「外注費」欄記載の金額)を控除し、更に当月に生じた光熱費(別表4ないし6の各〈3〉欄の「光熱費等」欄記載の金額)及び受取利息(別表4ないし6の各〈4〉欄記載の金額)を差し引いた残額であり、その金額は、別表7記載のとおりとなる。

四  源泉所得税の納税告知の適法性について

ところで、弁論の全趣旨によれば、大幸紙工は所得税法二一六条所定の源泉所得税の納期の特例を受けていたことが認められるから、大幸紙工が納付すべき源泉所得税は、毎年一月から六月までの期間と七月から一二月までの期間とに支給されたと認められる認定賞与の額に基づいて計算されることになる。

したがって、畝本に対する認定賞与に係る源泉所得税額は別表7記載のとおりとなるから、その範囲内でされた本件納税告知(一部取消後のもの)は適法である。

五  源泉所得税に係る賦課決定の適法性について

既に説示したところから明らかなように、大幸紙工は、その利益金のうち認定賞与に相当する金額を畝本に支給しながら、その事実を故意に隠ぺいしていたものであるから、本件納税告知(一部取消後のもの)によって納付すべき源泉所得税額に一〇〇分の三五の割合を乗じた額の重加算税を納税する義務を負うものである(国税通則法六八条三項)。

ところで、認定賞与の額は申告されなかった大幸紙工の法人所得と重複する部分があるから、その重複部分は法人税に係る重加算税の対象ともなるものであるが、被告は、係争各事業年度分の法人税に係る重加算税賦課決定も行ったため、その重複部分について二重に重加算税を賦課することは酷であることから、その部分に係る源泉所得税については、納付すべき源泉所得税額の一〇〇分の一〇の割合を乗じた額の不納付加算税(同法六七条一項)の対象としたものと窺われ、被告の源泉所得税に係る不納付加算税賦課決定(一部取消後のもの)及び重加算税賦課決定は、いずれも適法に算出された税額を賦課する処分と認められる。

第五結論

以上の次第で、昭和五八年七月から昭和六〇年一二月までの間の源泉所得税に関する課税処分のうち、一部取り消された部分の取消請求に係る原告の訴えは、不適法であるからこれを却下することとし、その余の源泉所得税に関する課税処分及び係争各事業年度分の法人税に関する課税処分の取消請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条及び民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤久夫 裁判官 橋詰均 裁判官武田美和子は、転補のため、署名捺印することができない。裁判長裁判官 佐藤久夫)

〔別表1〕 法人税に関する申告及び課税処分

1 昭和五八年三月一日から昭和五九年二月二九日までの事業年度

2 昭和五九年三月一日から昭和六〇年二月二八日までの事業年度

3 昭和六〇年三月一日から昭和六一年二月二八日までの事業年度

〔別表2〕 源泉所得税に関する課税処分

〔別表3〕 被告主張の所得金額

〔別表4〕 本件事業の収支(59年2月期分)

〔別表5〕 本件事業の収支(60年2月期分)

〔別表6〕 本件事業の収支(61年2月期分)

〔別表7〕 被告主張の認定賞与等

〔別表8〕 原告主張の必要経費

〔別表9〕 原告主張の給与賃金の明細

〔別表10〕 原告主張の家賃等の必要経費の明細

〔別表11〕 原告主張の減価償却資産の明細

〔別表12〕 原告主張の59年2月期分の減価償却費の明細

〔別表13〕 原告主張の60年2月期分の減価償却費の明細

〔別表14〕 原告主張の61年2月期分の減価償却費の明細

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